昭和37(1962)年7月28日(土)

南日本新聞

着工遅れる新設高校　鹿児島市

警察学校　移転交渉進まず

鶴丸、甲南も関心寄せる

鹿児島県教委は来年四月から鹿児島市に県立高校を新設することになり、その敷き地を旧一中あとの警察学校(薬師町三四)に内定したが、その後警察学校との移転交渉が進まず、着工が遅れている。また鶴丸高校PTAは「旧一中あとには鶴丸高を」と申し出ており、新設高校問題は鹿児島市内の県立普通高校の再編成問題にも波及しそうな形勢だ。

県教委は“終戦っ子”の高校大量入学に対処するため、来年四月の開校を目標に新設高校の準備にとりかかっている。 さる四月、その準備委員長に柳直一氏(前県教育庁指導課長)をあて、まず第一期工事として鉄筋四階建ての校舎二千四百七十五平方メートルの予算を計上した。定員は一学年四百五十人。だが、校舎建築には最低七ヵ月はかかるというのに、まだ着工していない。

その第一の原因は、敷き地問題がこじれたこと。県教委は旧一中あとの警察学校に新設高校をつくろうと予定しているが、肝心の警察学校は県が交通の便利な土地をさがし、鉄筋の校舎を建てない以上は動かないと言っているためだ。この警察学校の敷き地は県有地だが、建て物は国有財産になっている。 昭和二十三年二月､戦災にあった一中を再建するため、同校のPTAなどの力で仮校舎をつくったが一中が一高女と合併して鶴丸高校として発足したのを機会に、県は二十四年十二月、当時の国家地方警察に建て物だけを身売りした。その後、国は警察学校の本館など四百三十三万円をかけて増築や補修工事を行ない､建て物だけの台帳価格は一千百万円となっている。

これに対して県当局は「警察学校に移転してもらうのだから、県が代わりの土地を提供するのは当然だ。しかし、建て物も県がつくれという主張はおかしい。 どっちみち国は警察学校の校舎をつくり直さなければならないはず･･」と反論している。双方の折衝は硬着状態で、なかなか進展しない。「いっそほかの敷き地に新設高校をつくったら」という声もあるが、旧一中あとは環境的にも“一級地”であり、新設高校の内容を充実させるためにも、ゆかりの地に建てた方がよいというのが圧倒的な意見だ。

一方、新設高校の敷き地予定地が旧一中あとだけに、教育界の動きは微妙。鶴丸高PTAはこのほど県教委に「旧一中あとに高校を新設することには反対しないが、この新設高校を鶴丸高の西教場とし、現在の鶴丸高を東教場にしてほしい」と陳情した。 現在の鶴丸高は旧一中と旧一高女が戦後合併した高校だが、もし旧一中あとに新設高校ができれば、鶴丸高校の前身は旧一中でなくなり、長い伝統が失われてしまうというわけ。また最大の悩みは運動場が奪われてしまうこと。鶴丸の校庭はわずか八千二百五十平方メートルしかなく、男子生徒の競技ができない。このため旧一中あとのグラウンド一万五千五百平方メートルは現在、鶴丸高が管理しており、同校生徒が野球やサッカー、ラグビーなどに使っている。このグラウンド確保のためにも、 旧一中あとの新設高校は鶴丸高の教場にあてるべきだという意見だ

そうなると、鶴丸高は男子と女子の二つの学校に分かれ、旧一中と旧一高女が復活する可能性も出てくる。これに対し、甲南高の同窓生の間に「鶴丸高が二つに分かれるなら、甲南高も旧二中と旧二高女の二つに分かれるべきだ」という声も出てきた。このため、新設高校問題は市内にある二つの県立普通高校､鶴丸、甲南をひっくるめた立ち場で検討する必要が生じ、高校の再編成問題が起きてくる。その再編成にもいくつかの意見があるが、今のところ有力なのは、旧一中あとの新設高校と甲南高校を男子生徒の多い高校に育成し、現在の鶴丸高は女子教育に力をいれるという意見だ。もちろん男女共学の基本線はくずさない。女子生徒といっしょに勉学に励みたい女子生徒は、旧一中あとの新設高や甲南高に入学できるようにするというもの。いずれにせよ一日も早く新設高校の敷き地と “性格” を決め、校舎建築に着手してほしいとの声が強まってきた。