学校の見える風景

■井戸を掘った先輩たち

 

皆さん、おはようございます。甲南高校の東です。お陰様で、私たちのこの鶴丸、甲南スポーツ交歓会も、今年は第三十回という記念すべき大会になりました。両高校の生徒会役員の皆さんは、この記念すべき大会を盛り上げようと、早い時期から企画に創意を凝らし運営に工夫を重ねながら、今日ま で準備を進めてくれました。まずはその努力を讃え、両校生の感謝の気 持ちを込めて拍手を贈ります。

 

今日のプログラムには、「十世紀最後の決戦」とあります。まさに、両 校生のこのスポーツ交歓会への心意気を端的に示すことばであると思います。と同時に、これまで積み上げられてきたこの行事の歴史にも思いを馳せながら、将来への発展を誓う私たちの決意のことばでもありましょう。幸運にも、私はこの大会の誕生の経緯を知る者の一人です。それだけに、「第三十回大会」ということに対しては、特別な感慨を覚えます。折角の機会ですので、この大会の誕生に関わる一つのエピソードを紹介し、この記念大会の重みと今日一日の意義を考えることにします。

 

プログラムにも紹介されていますが、第一回の開催は、昭和四六年(一九七一年)です。両校を会場とした四種目の競技でした。その日の 午後をカットしましたが、当時にあっては画期的なことでした。当時の生徒たちの歓喜の表情までも、今朝は思い出すことでした。当時も、両校ともに文武両道の校風は盛んで、体育局、文化局ともに部活動の活躍は今日に勝るとも劣らないものがあったと思います。 勉学と部活動との両立をめざす仲間たちは、まさに「勇者」で、午後からの試合であれば、三時限までぐらいは授業に臨んでいましたし、教室を飛び出していく選手たちに、級友の熱い声援がありました。残念なことに、ほとんどの生徒たちは、自分たちの級友が活躍する姿を目の当たりにする機会はありません。偶に日曜日か休日に試合があれば応援に駆けつけていましたが、そんな日は極めて稀でしかありませんでした。

 

校内のクラスマッチでさえも、学級の雰囲気づくりのために欠くことのできない行事になっている。これを学校全体に広げて、我が校の選手たちの勇姿を全校生で応援する機会があったら、学校全体のアイデンティティはどんなにか高まることだろう。我々の学校生活の中にも、そんな日があってもよいのではないか。

 

そんなことを真剣に考えた私たちの二人の先輩がいました。当時の両校の生徒会長です。二人は、中学時代の同級生。今は通う学校は違っていても、自分たちの高校生活はどうあればよいのか、二人で意見を交わしていたのでしょう。柔道部員の一人として、また学級生 の一人として、高校生活への夢は熱いものがあったはずです。その二人の真剣な気持ちを、本気になって受けとめる仲間がいます。生徒会執行部の諸君です。いつしか両校生徒会間で密かな話題となり、実現するための課題とその解決策について討議は進みます。燎原の火は、草木を焼き尽くします。火勢をさえぎるものは岩石をも焦がし、そのエネルギーは日を追って強大になっていきます。ついに生徒会の発議によるこの企画は、幾多の迷路を切り抜けハードルを越えます。それは、自分たちの高校生活を豊にしたいという純粋で一途な気持ちと、両校の間に敬愛、互譲、協調の精神があったからです。

 

この第三十回記念大会に当たり、井戸を掘った先輩たちに対し、改めて皆さんと共に深く敬意を表することとし、この創設の精神を継承するために、ここに私たちの決意を新たにしよう。風格のある学校には、必ず良き伝統行事が生き続けています。醇乎たる校風を継承するためには、全校生が心を一つにすることの重みを理解しているからです。今日一日が、両校生にとってわが高校生活の喜びと誇りを実感する一日となることを念じながら、選手諸君の健闘を祈ります。

 

会場をお借りするに当たって、県総合体育センターには大変お世話になりました。また、本日の審判を快くお引き受けくださいました各競技団体にも、心から感謝申し上げます。「二十世紀最後の決戦」が、記念大会にふさわしく青春賛歌の舞台となり、新たな発展への大きな契機となることを祈って、開会式の挨拶といたします。

 

(平成十二年四月 鶴丸、甲南スポーツ交歓会開会式)

■著作者 東憲治

■出版社 高城書房

■出版年 平成14(2002)年11月


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